熊本大学GP「IT時代の教育イノベーター育成プログラム」 国際セミナー
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実施報告

行事名
 熊本大学 国際セミナー -遠隔教育と見えない学習者-
主催者
 熊本大学
日時
 平成21年3月5日 15時00分~16時15分
報告者
 熊本大学 社会文化科学研究科 教授システム学専攻長 鈴木 克明
報告日
 平成21年3月31日

 実施したイベントの成果

 本GPにおける各サブプロジェクトはもとより、本専攻の全授業はe-Learningを中心とした遠隔教育で行われている。「大学院教育の実質化」に取り組む本GPにおいて、その提供手段である遠隔教育自体の質保証について省察することは、本GPにおける取り組み全体を盤石なものにするために重要な意味を持つ。
 今回実施した国際セミナーでは、テクノロジー面ばかりに注目が集まることの多い遠隔教育における教授学習過程の側面に焦点を当て、遠隔教育における学習者の特徴や、それをふまえた指導のあり方などについて、ニューイングランド大学よりマイケル・ボーデン(Michael Beaudoin)教授をお招きしてご講演をいただいた。ボーデン教授は、Online Journal of Distance Learning Administration、Journal of Educators Online、American Journal of Distance Educationなどの遠隔教育関連の雑誌で編集委員を担当していらっしゃるほか、ibstpiにおいてもディレクターを務めていらっしゃる遠隔教育の専門家であり、本講演では、教授が行った調査研究の結果にもとづいた知見をご披露いただいた。
 演題における「"見えない(Invisible)"学習者」とは、コンピュータの向こう側にいる学習者を相手とするe-Learningにおいて、オンライン上の掲示板などで積極的な反応を示さないことにより、その学習活動が一見すると「見えない」者のことを指す。先入観としては、このような者の学習は停滞しているように思われる。しかし、教授の調査によると、約4割の学習者は2週間に渡って可視的な学習活動をほとんどしないにも関わらず、平均して週に22時間勉強していると主張したという。また、このような学習者の成績は劣るわけでもなく、最優秀者は積極的に活動をした者だったが、それに続いたのは、このような”見えない”学習者であったとのことである。この他、教授者の接し方や問いかけがもたらす影響、学習者集団の特徴が対面学習に与えるような傾向との違い、それまでのオンライン活動の経験の差による違い、IT的に特徴がある技術を用いた際の影響など、追加的な調査の結果についてもご紹介があった。そして、これらをまとめると、オンラインにおけるほとんどの学生は、学習活動の視認性には注意を払わずに、自身が好むスタイルで学習を進める傾向にあるとのことである。
 同様に、ボーデン教授は、「見えない」、つまり反応を示さない教授者についても言及し、遠隔教育において、教授者の存在感が欠如することは致命的な問題であると指摘した。そのような姿勢は、学習者側に伝播し、良い影響を生まないと考えられるからである。そして、「見えない教授者」に繋がる要因として、教授者における遠隔教育に対する理解不足や自身の役割に対する認識不足の例を挙げるとともに、今後は、この「見えない教授者」と「見えない学習者」との関連を調査していきたいと抱負を語られた。また、ボーデン教授は、遠隔教育における教授者を「オーケストラの指揮者」と見立てる例えを交えたり、「指導過程における要点は、その大部分が目につきにくい(invisible)"創造的な探求"を、教師とは独立させて生む条件を創出することである」と述べたデューイを引き合いに出したりしながら、教授者は、指導するだけではなく、学習の環境づくりにも注力する必要があると述べられた。
 このような思慮深い講演に対して、フロアからも興味深い質問が相次いだ。「授業過程を"指揮"するのは対面の方が容易に思われるが、遠隔では具体的にどの様な方法で"指揮"すればよいか」という質問については、学習者のパーソナリティーの把握に務めることが"指揮"力に繋がること、「オンライン上でアクティブ過ぎることにより他の学習者に悪影響を及ぼしかねない者にどう対処すればよいか」という質問については、そのような行動癖を改めるように個別に指導すること、「対面においても、大量の受講者数を抱える授業では、同様に"見えない"学習者が生まれるが、このような状況にどう対応すべきか」という質問については、補助指導者を増やしたり少人数のクラス編成を導入したりすることなど、的確なアドバイスをいただくことができた。

 今後の事業への反映

 オンラインにおける教育を考える際、教授者がマネジメントする学習内容だけではなく、学習者が辿る学習プロセスをも学習として見なすことが重要であるという。e-Learningを中心とした遠隔教育によって行われている本専攻の授業ならびに本GPの取り組みにおいても、教授者側と学習者側の双方を、オンライン環境で行う教授学習過程へ適切に意識転換させる工夫が必要であるという示唆が得られた。
[文責:教授システム学専攻 特定事業研究員 小山田誠]

 当日の様子

 
ニューイングランド大学 教授
Michael Beaudoin 氏

 
熊本大学 教授システム学専攻 専攻長
鈴木 克明

 
会場の様子
 
会場の様子

 参加人数

【合計22名】
・学内 20名 事前登録:20名
・学外 2名 事前登録:2名